老人ホームで調理補助のパートを始めました

何気なく求人を眺めていた時に見つけたのが、老人ホームの調理補助の仕事です。人と話すのが苦手でサービス業には不向きなタイプですが、人前には出ない裏方の仕事なら続けられそうと感じました。

また料理はそれほど得意ではありませんが、全く出来ない訳でもありません。介護業界も調理関係の仕事も未経験ではありましたが、何となく自分に向いているような気持ちになり、求人に応募する事にしたのです。

校則のような細かさに驚き

求人に応募した翌日には電話があり、その日に面接を受けました。人手が足りなくなったようで、すぐにでも新しい人を入れたい様子です。しばらく専業主婦でのんびり過ごしていた自分が採用されるだろうかと一抹の不安を抱えていましたが、10分ほどの面接ですぐに採用が決まりました。

半分無理と思っていただけに予想外の展開には驚きましたが、久しぶりに自分でお金を稼げると嬉しかったです。ただ夫に調理補助の仕事が決まったと報告すると、まず「大丈夫?」と心配されました。夫は職場の社員食堂で慌ただしく働くパートさん達の姿を見ているだけに、のんびり屋の私には無理と感じたようです。

夫の反応には不満を覚えましたが、見返すには結果を出さなければいけません。そこそこ料理歴も長いから大丈夫と自分に言い聞かせ、初出勤の日を迎えました。仕事を教えてくれるのは3年前から厨房の仕事をしている方でしたが、ハキハキとした話し方で少し苦手意識を感じたのが本音です。

その直感は当たり、最初から容赦なく注意を受けました。髪の毛は1本残らず帽子の中に入れる、髪を束ねるゴムは黒色のシンプルなものにする、爪はギリギリまで切ってくるなど、まるで校則のような細かさに驚きましたが、内容自体は間違っていません。

ただ皆の前で大声で叱られるのは少し恥ずかしかったです。

覚えるべき事が大量で頭がパンク寸前

調理補助の仕事で最初に教え込まれたのは衛生管理です。当然ながら老人ホームを利用しているのは高齢者ばかりで、若い年代よりも抵抗力がありません。つまり元気な人には問題ない細菌でも食中毒を引き起こす可能性があるという訳です。

元々神経質なタイプで自分でも手洗いは丁寧に行っていたつもりでしたが、先輩の目からチェックすると甘かったようで、何度もやり直しをさせられました。さらに食器や調理器具の洗浄、消毒も徹底的に教え込まれました。

正直ここまでやるか?と感じましたが、仮に食中毒が発生すれば老人ホーム自体の信用問題にも繋がります。厨房スタッフは私同様にパート社員がほとんどでしたが、みなプロ意識を持って仕事に取り組んでいるんだなと気付かされました。

私もなるべく注意されないよう作業していきたいと思ったのですが、実際はそう簡単ではありませんでした。そもそも介護食は家庭で作る料理とは別物です。補助の立場なので塩分やカロリー調整まで行う必要はないですが、食材の切り方や刻み方など新たに覚えていく事は多かったです。

補助なら簡単そうという安易な考えで応募したものの、覚えていかなければいけない内容が大量にあり、頭がパンクしそうになりました。

ちょっとしたミスも指摘を受ける

仕事に慣れるまでは頻繁に怒られていました。一番注意を受けたのは衛生管理です。自分では言われた通りにやっているつもりでも、職場で決められた手順通りに行わなければアウトで、少しでもミスがあればすぐに指摘されます。

さらに料理を適温で出すためにはスピードも求められます。決してノロノロと作業している訳ではないですが、周りに比べると圧倒的に遅く、「まだ終わっていないの?」と呆れられる事も少なくありませんでした。早くしなければと思えば思うほどミスも増えます。

ただ小さなミスも許してもらえません。ほんの少し野菜を大きくカットしてしまっただけでも、「決められた通りにカットして」と厳しく注意されます。丁寧に作業すればスピードを求められ、スピードアップしてミスがあればまた怒られるという繰り返しで、自分の能力の低さには、ほとほと嫌気がさしました。

仕事を辞めたいと考えることも多かったですが、みんなが忙しそうに作業している中ではなかなか切り出せません。結局言い出す機会が見つけられず、嫌々ながらもズルズルと仕事を続けている状態でした。

食事の盛り付けが上手くなる

一刻も早く辞めたいと思っていた仕事ですが、半年が経つ頃には随分慣れてきました。スピーディーに求められる作業をこなせるようになり、注意されることもいつの間にか無くなりました。私よりも後に入ってきた後輩スタッフもおり、厳しい先輩の目が私から離れた事も、ストレス軽減の要因だと思います。

特別時給が高い訳ではないですが、作業内容が頭や体に叩き込まれており、辞めてしまうのは勿体ないなと考えるまでになってました。また盛り付けが上手くなったと夫に褒められたことも、私が自信を持つきっかけになりました。

それまでは料理の献立や味ばかりに気を使い、最後の盛り付けは適当に済ませていました。しかし老人ホームでは料理の盛り付けも非常に重要です。小食になった人や食に興味がなくなった人に「食べてみようか」という気持ちを起こさせるには、まず見栄えが大事なのです。

実際、綺麗に盛り付けた料理は美味しそうに見え、多くの利用者が完食してくれました。自分の仕事も利用者の健康を支えている一部になっているのだと実感でき、よりやる気を持って仕事に取り組めるようになったと思います。

とろみの付け方には注意が必要

私の作業は料理の下ごしらえや食器洗いなどがメインでしたが、きざみ食やミキサー食、流動食などの調理方法も学べました。例えば嚥下力の弱くなった方にはとろみをつけた料理を提供しますが、とろみをつけたら良しというものでもありません。

とろみを付け過ぎると人によっては誤嚥の原因にもなるため、利用者ごとに適切な加減で調整しなければならないのです。老人ホームで働き始めてから知った事が多かったですが、介護食のノウハウを知り尽くし、もし自分が家族の介護をする立場になった際は色々と役立ちそうです。

介護食のプロを目指して勉強中

最初は嫌だ嫌だと感じていた仕事ですが、いつの間にかベテランの域に達しました。人を指導する立場となり、周りの作業を見ながら率先して動けるようになってます。また介護食の奥の深さを知り、もっと自分も調理に携わりたいと感じ始めました。

そこでスタートしたのが栄養士の資格取得のための勉強です。仕事に活かせるのはもちろん、自分や家族の健康を守るためにも頑張っていきたいです。